送電線は行列のできるガラガラのそば屋さん?
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というわけでこの本を読んでみました。
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書籍出版の背景
送電線の空き容量がないということで、送電線の費用負担により
再生可能エネルギーの受け入れが実質制限されました。
これに対して、京都大学の安田先生による記事で、
基幹送電線の年間平均利用率は約2割という内容です。
そして、資源エネルギー庁がこの内容に応じた記事を記しました。
また、電力広域的運営推進機関はこちらの記事を記しました。
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denryoku_gas/saiseikanou_jisedai/pdf/002_03_00.pdf
そして、この問題についてまとめ、議論を喚起した本がこの
安田先生の主張について
新聞記事を読んだ印象から、
「平均利用率は低いのに、電力会社は容量不足と称して接続拒否している」
という主張がされていると誤解していました。
また、新聞記事を元に「電力会社が悪い」とか「利用率での議論は無駄」
といった、議論の体をなさないような主張のぶつかり合いも起きていました。
しかし安田先生の主張は結局のところ、
「電力の安定供給を確保しつつ、現状の送電網を有効活用すべし」
というものでした。これには同意です。
中でも、「現状の送電網を有効活用する」ための議論を喚起しています。
また、そのため情報開示や公平性について問題提起しています。
書籍内で紹介されていること
1章では、空き容量の考え方について素人にもわかりやすく説明しています。
内容については、本書を読んでみてください。
もしくは上記の資源エネルギー庁の記事がわかりやすいです。
「素人は理屈がわからず、専門家での話し合いでルールを決めている
という現状がありますが、一般人に問題を理解してもらうことで
問題提起と情報開示のきっかけに、という思いを勝手に感じています。
(本当にそのように考えているかはわかりませんが。)
2章では、送電線空き容量問題の原因について述べられています。
空き容量の定め方がブラックボックスであり、透明性や公平性が問題です。
果たして、定格容量での計算は合理的なのかと問題提起されています。
また、設備増強だけでなく運用の工夫をすべきとも主張されています。
日本版コネクト&マネージについてもちらっと触れられています。
そして、3章では主張の元となったデータを提示しています。
ちなみに本のタイトルの意味は?
送電線は、理論上の容量に対して余裕を持って運用容量を定めています。
そのため、理論上の容量から見るとかなり空きがあるように見えます。
これを、行列なのに中はガラガラのそば屋さんに例えています。
今回の問題について、タイトルにならってそば屋に例えるなら、
「ガラガラ」の判断基準がお店とお客さんで異なっているということです。
お店側からしたら、お店は満席で空きがない状況となっています。
一方、お客さんからしたら、まだスペースはたくさん空いているのだから
より多くの客が座れるようにしたらどうだ?と訴えかけている状況です。
そして、「何を持ってガラガラと判断すべきなのか考えようじゃないか」
という議論が提唱されています。
管理人の意見
本書は、技術に関する書籍というよりは問題提起を目的とした書籍です。
そのため、新たな技術や理論が身につくわけではないですが、
送電線の運用について考えるきっかけを与えてくれる1冊でした。
特に近年では、FIT制度や自由化がきっかけとなって
経済性について考える場面が増えてきており、
送電線運用制度について検討する機会とも言えます。
個人的には、前にも記しましたが送電線の空き容量の評価は
各送電線の実際の運用から検討されるべきことだと思っています。
稼働しない原子力の設備容量分、空きを確保する必要はないですし、
その場合は稼働までは他電源に使ったほうが間違えなく効率的です。
一方、平均では利用率が高くなくとも実潮流で瞬間的に上限に近い値
であったとしたら、系統安定のためにも利用には慎重になるべきです。
どうあれ、送電線の隙間は極力減らすというのが重要であるというのは
世の中の共通認識であるため、良い方向に議論が進んでほしいものです。
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