ラプラス変換における部分分数分解
はじめに
ラプラス逆変換する際の部分分数分解に関するツイートを見かけました。逆変換の際にわざわざ通分して係数比較を行うというものです。
ラプラス変換は学校教育だと大学でしか学ばないし
電験を受験する人でも知らない人が多いのだろうな
係数比較法は、計算が多くなりケアレスミスのもととなります。特に電験2次試験は問題数が少なく、序盤のミスが後に響きます。部分点はあれど、極力計算ミスによる失点は避けたいものです。そこで今回は、より簡単にラプラス逆変換が可能になる「ヘビサイドの方法」を紹介します。
正直、「ヘビサイドの方法」という名は知りませんでした。ただ、その計算方法は大学の授業で学びました。
ヘビサイドの方法による部分分数分解
ヘビサイドの方法による部分分数分解を紹介します。この方法では、重解の有無により解き方が異なります。基本は同じです。
重解がない場合の部分分数分解
文字式
まずは、文字で表した式について記載します。
文字式だと複雑そうに見えるかもしれません。その場合は飛ばしてください。
部分分数分解後の式の形で等式をたてて、A,B,Cを求めます。(a≠b≠c)
\(\frac{1}{(s+a)(s+b)(s+c)}= \frac{A}{(s+a)} + \frac{B}{(s+b)} + \frac{C}{(s+c)}\)
両辺にそれぞれ、(s+a),(s+b),(s+c)をかけて-a,-b,-cで極限をとります。
Aを求めるときは、(s+a)を両辺にかけて、s→-aで極限を取ります。
\(\frac{1}{(s+a)(s+b)(s+c)}\times(s+a)|_{s→-a}= (s+a)\{\frac{A}{(s+a)} + \frac{B}{(s+b)} + \frac{C}{(s+c)}\}|_{s→-a}\)
すると、B,Cの項が0となり
\(A=\frac{1}{(b-a)(c-a)}\)
簡単にAが求められます。B,Cも同様に求められます。
\(\frac{1}{(s+a)(s+b)(s+c)}\times(s+b)|_{s→-b}= (s+b)\{\frac{A}{(s+a)} + \frac{B}{(s+b)} + \frac{C}{(s+c)}\}|_{s→-a}\)
→\(B=\frac{1}{(a-b)(c-b)}\)
\(\frac{1}{(s+a)(s+b)(s+c)}\times(s+c)|_{s→-c}= (s+c)\{\frac{A}{(s+a)} + \frac{B}{(s+b)} + \frac{C}{(s+c)}\}|_{s→-a}\)
→\(C=\frac{1}{(c-a)(c-b)}\)
というわけで、
こうすることで、簡単にA,B,Cが求められ、部分分数分解ができます。
例題を部分分数分解してみる
以下の式について部分分数分解してみます。
\(\frac{6}{s(s+2)(s+3)} = \frac{A}{s} + \frac{B}{(s+2)} + \frac{C}{(s+3)}\)
s,(s+2),(s+3)をそれぞれかけて極限を取ります。
極限というとわかりづらければ代入と考えて計算しても支障ありません。
\(\frac{6}{s(s+2)(s+3)}\times s |_{s→0}= s\{\frac{A}{s} + \frac{B}{(s+2)} + \frac{C}{(s+3)}\}|_{s→0}\)
→\(A=\frac{6}{2 \times 3}\)
→\(A=1\)
\(\frac{6}{(s)(s+2)(s+3)}\times(s+2)|_{s→-2}= (s+2)\{\frac{A}{s} + \frac{B}{(s+2)} + \frac{C}{(s+3)}\}|_{s→-2}\)
→\(B=\frac{6}{-2 \times 1}\)
→\(B=-3\)
\(\frac{6}{(s)(s+2)(s+3)}\times(s+3)|_{s→-3}= (s+3)\{\frac{A}{s} + \frac{B}{(s+2)} + \frac{C}{(s+3)}\}|_{s→-3}\)
→\(C=\frac{6}{3\times 1}\)
→\(C=2\)
というわけで元の式に代入すると、
\(\frac{6}{s(s+2)(s+3)} = \frac{1}{s} – \frac{3}{(s+2)} + \frac{2}{(s+3)}\)
というわけで、係数比較することなく部分分数分解ができました。
考え方さえわかれば、とても単純な計算となることがわかりますね。
重解がある場合の部分分数分解
文字式
まずは、文字で表した式について記載します。
文字式だと複雑そうに見えるかもしれません。その場合は飛ばしてください。
正式なヘビサイドの方法を用いる場合は、微分を使って計算するのですが、それだと計算ミスが増えてしまうので私は用いません。
部分分数分解後の式の形で等式をたてて、A,B,Cを求めます。(a≠c)
\(\frac{1}{(s+a)^2(s+c)}= \frac{A}{(s+a)^2} + \frac{B}{(s+a)} + \frac{C}{(s+c)}\)
両辺にそれぞれ、\((s+a)^2,(s+c)\)をかけて-a,-cを代入します。
次の式です。
\(\frac{1}{(s+a)^2(s+c)}\times(s+a)^2|_{s→-a}= (s+a)^2\{\frac{A}{(s+a)^2} + \frac{B}{(s+a)} + \frac{C}{(s+c)}\}|_{s→-a}\)
両辺に\((s+a)^2\)をかけてs→-aとすると、B,Cの項は0となるため
\(A=\frac{1}{c-a}\)
となり、簡単にAが求められます。Cも同様に求められます。
\(\frac{1}{(s+a)^2(s+c)}\times(s+c)|_{s→-c}= (s+c)\{\frac{A}{(s+a)^2} + \frac{B}{(s+a)} + \frac{C}{(s+c)}\}|_{s→-c}\)
→\(C=\frac{1}{(a-c)^2}\)
というわけで、こうすることで、簡単にA,Cが求められます。
あとは、両辺にA,Cと、sに適当な数字(s=0など)を代入します。
\(\frac{1}{a^2(c)}= \frac{\frac{1}{c-a}}{(a)^2} + \frac{B}{a} + \frac{\frac{1}{(a-c)^2}}{c}\)
これを計算すると、
\(B= \frac{1}{ac}+\frac{1}{a(c-a)}+\frac{a}{c(a-c)^2}\)
というわけで部分分数分解ができます。
文字式でみると、Bがかなり複雑に見えるのですが以下の例題の計算を見てみると簡単さがわかると思います。
例題
というわけで例題です。以下の式を部分分数分解してみます。
\(\frac{1}{s^2(s+1)}= \frac{A}{s^2} + \frac{B}{s} + \frac{C}{(s+1)}\)
まずは、両辺にそれぞれ、\(s^2,(s+1)\)をかけて0,-1を代入します。
\(\frac{1}{s^2(s+1)}\times s^2|_{s→0}= s^2\{\frac{A}{s^2} + \frac{B}{s} + \frac{C}{(s+1)}\}|_{s→0}\)
→A=1
\(\frac{1}{s^2(s+1)}\times (s+1)|_{s→-1}= (s+1)\{\frac{A}{s^2} + \frac{B}{s} + \frac{C}{(s+1)}\}|_{s→-1}\)
→C=1
そして、A=1,C=1,s=1を元の式に代入すると、
\(\frac{1}{1^2(1+1)}= \frac{1}{1^2} + \frac{B}{1} + \frac{1}{(1+1)}\)
→\(\frac{1}{2} = 1 + B + \frac{1}{2}\)
→B=-1
ということで、簡単に部分分数分解できました。
\(\frac{1}{s^2(s+1)}= \frac{1}{s^2} – \frac{1}{s} + \frac{1}{(s+1)}\)
電験2種参考書での計算は・・・
私の持っている参考書である「電験二種完全攻略 二次試験対応」
係数比較とヘビサイドの方法、両方の解き方について記載がありました。正直、係数比較を行う方法は非常に計算の手間がかかるため「ヘビサイドの方法」を行う方法を身につけるべきです。
考え方も難しくなく、
1.部分分数分解後の式の形で等式を作る(係数比較法も同じ)
2.因数を両辺にかけて、他の項がゼロになるよう極限を取る
3.各因数でこれを繰り替えす
これだけです。特に2次試験では時間がギリギリになりがちなので、ぜひ身につけてスマートに部分分数分解ができるようになってください。
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